１２．Love Grows

『俺、帰ることにした』
　それだけつぶやいた。ただのつぶやき。けれど耳朶を強く打つ。ああ、そうなのだなという納得の気持ちと、いつまでも続くと思っていた気持ち。どちらが強いといわれれば、たぶん後者。
　そんなはずはない。そんなはずはなかったのだ。人は本来の己の場に戻らなければならない。見つけてしまったならそこを目指さなければならない。
　彼の場は研究室ではなかった。わかっていたことなのになぜ動揺する。彼自身が己を語ろうとしなかったからか。その胸のうちに気づくことが出来なかったからか。スラムにすら直営店を持ち、年間の純利益が小国の予算規模など軽くしのぐという超大企業が想像できないからか。
　どれも違う。
　目だ。冗談を言うような口調で目だけがまっすぐこちらを見ていた。あの目は覚えている。あの日、あの時。オーウェルの目。懐かしき、忘れがたき遠い思い出。
「はっ！」
　目は覚めた。けれどまだ緩やかな眠りにいるような、寝覚めの悪い朝。それもそのはずだ。普段よりずいぶんと早起きをしている。
「……」
　昨日どこをどう帰ってきたのかまったく覚えていないがとりあえず今は自分の部屋にいる。それにはほっとした。次いで、きちんと自分で歩いて帰ってきたのか不安になった。後でジェイに聞いておこうかと思うも自分の考えを肯定されるのが怖い。おそらくそれが正しいはずなのだから。
「うー……」
　言われたことを思い出しかかっては記憶の奥底へ沈めるようにほかの事を思い出す。だがだんだん体が熱っぽくなってきた気がする。
「お茶……飲も……」
　文字通り寝台から這いずりだして重い足取りのままキッチンへ。残されたままの食器を見れば夕べはどうやら揚げ物だったようで、それならジェイではなく自分が作ったはずなのだが全然記憶にない。よくも火事を起こさなかったものだと今そこでゾクリと背が冷えた。
　お湯を沸かし茶葉を舞わせている間は常々それ以外のことは考えない。なのでリセットするのにちょうどいいのだが今回ばかりはそうも行かないようだった。
「……別に、犯罪の、幇助を頼まれたわけじゃないんだけど」

　そう。悪いことではないのだ。だがいきなり過ぎてまだ動揺が収まっていない。
「いきなり？　……そうなのかな、そうじゃないよね」
　考えてみればその兆候は今までも何度かあった。気づいてなかったわけではない。ただそんなはずがないと彼のその点に関してだけは思考停止していた。
「好き、は、好き。けどどうしたらいいんだろう……」
「んー？　あれ、姉ちゃんおはよう」
「！」
　びくりと肩を動かす。そっと振り返ると眠そうにあくびをしながらジェイが起きてきていた。

「あ、ジェイ……おはよう……」
「昨日どうしたの姉ちゃん。いきなりトミーにいちゃんが背負って帰ってくるから何事かと思ったよ」
「……やっぱりそうなのね……」
「後夜ご飯作ってもらったよ。姉ちゃんなんかずっと寝っぱなしだったし」
「……じゃああの揚げ物の跡は」
「うん、にいちゃん。勝手に使って悪いが、って言ってたよ。会ったらお礼言っといてね」
「あ、え、う、うん」
「……ほんと、姉ちゃん大丈夫？」
　声に出して返事はせず頷くだけにとどめておいた。

　目。目。目。不思議な色。深い紫の瞳。少なくともシリアは彼に会うまでその目の持ち主を知らなかった。知らず見入っていたこともあるようで、そんなときはトミーが肩をすくめて笑った。
『そんなに珍しいか？　まぁ珍しいんだろうけど』
　家族は何人か同じ目をしているらしい。
『けど俺はお前のほうがうらやましい。空の蒼、海の蒼。馴染み深い。ずいぶん前にいわれたことがあるんだ、俺の目は人を不安にさせるってさ。ま、紫色自体が不安な色だから仕方ないんだが。お前の蒼は安心する。傍にいるだけで』
　じっと覗き込まれて思わず離れた。そんなに気を悪くした風でもなくすぐに笑う。その時自分は謝っただろうか？
「シリア？　どうしたの、本部に来るとばっかり思ってたんだけど？」
　リテがひょいと顔を出した。流石に今日は本部に顔を出すことも出来ず、しばらくドアの前で右往左往した挙句自分の研究室でずっとぼんやりとしている。
「なんか一日待っても来ないと思ったらこっちに明かりついてるしさ」
「ご、ごめんリテ……変わったこと、あった？」
「ううん、全然。あ、でもあさってくらいに草稿つめる予定だから顔出してね」
「……うん」
　気が進まない。本部にはトミーがいる。何をどう言えばいいのか、そもそも顔を合わせたときまた記憶を飛ばさないとは限らない。
「ねぇシリア、何かあったの？　変よ」
「……」
　怪訝そうな顔をして椅子に座ったまま困った顔をしているシリアに近寄る。
「リテ……」
　泣きそうな顔をしていたのかもしれない。泣くことが一体どこにあるのだろうと思いながら。
「あの、あのね……」
「うん」
「……えと」
　言葉が音にならない。口が空を切るだけで、そんな姿をリテは不安そうに見る。
「シリア、落ち着いて。あわてなくていいから。ゆっくり、ゆっくり。言いたいことを一つだけ。全部は一息にいえないんだから」
「うん、うん……」
　なだめられて大きく息を吸う。思わず吐き出すのを忘れそうになりむせ込んだ。あわてて親友が背を撫でてくれる。そんなことを繰り返した果てにようやく言葉が一つ。
「……プロポーズ」
「ん？」
「されたの……」
「……」
　リテの動きが止まった。時間も止まったような静かさ。外からの音すらも入らない。
「誰に」
　冷静なリテの声にハッとなった。気づけば彼女は正面に回り真剣なまなざしでシリアを見ている。
「あ、えと……その……」
「言えない人？」
　即座に首を横に振る。いえないわけではない。自分の心が昨日の今日で落ち着いていないだけ。そんなシリアの様子を見守るようにリテは笑う。
「うん、そっか。とにかく、どっか調子悪いのかと思ったから安心した。貴女に何かあったら私嫌だもの」
「リテ……ごめんね、ほんと、いきなりだったから、ほんと、その、調子、昨日から、狂っちゃって……」
「プロポーズを予告して言う人もめったにいないと思うけど……調子が狂ってるのはその様子見てたら明らかよ。十人中百人は様子が変だって言うわね」
「……ははは」
「そこまでおかしくなってるってことはよっぽど意外な人から言われたってことかしら？　それともシリアのほうがそういうのまったく免疫なかったからってのが正しいほうな気はするけどね」
「……うー……否定できない」
「どっち？　やっぱり後者？」
「やっぱりって何よやっぱり、って」
　心配しながらからかうリテのおかげで少し気が落ち着いた。黙り込んでいるのは良くないのだな、と息を軽く吐く。
「あのね、昨日言われたんだ。『妻として来てくれないか』って」
「うわぁ、それはすごく直球ね。誰がどう聞いてもプロポーズとしか言いようがない」
　ロマンチックさはないけれど。リテは少しだけ、自分がそんなプロポーズでなくて良かったと思ってしまう。けれど、もしかしたら相手がシリアだからロマンチックなだけの装飾フレーズをすべて無くして直球で勝負をかけてきたのかもしれない。
　いったんそう思うとそれが正しいと信じてしまう。何せ目の前で顔を赤くしている親友は、そういう方面においてはとんと無頓着、彼女自身の性癖もあいまってそういう噂が本気で無い人物だ。そのつもりで言葉を伝えてもプロポーズと認識しないだろう。
　あれ？　じゃあ、そういう部分全部知ってる人だったってこと？
　でなければ一般人はおやかん乱舞で引いてしまうのだ。彼女の性格を深く知る前に。そこまで考えて思い当たる人間が三人。うち一人は即削った。メールでのやり取りはしているみたいだがそういうことを直接会わずに言う人にはどうしても思えないからだ。なら残るは。そしてリテには心当たりがある。
「……トミー君？」
「！」
　ビンゴ。
「なんだ、彼なのね。やっと言ったのかぁ」
「……なな、何よリテ、し、知ってたの！？」
「知ってたっていうか……見てたらわかるもの。気づかないのは貴女とカルサート君くらいでしょ。いや、流石のカルサート君もちょっと気にしてた部分あるのよ？」
「知らない知らない、そんなの知らない！」
　かいがいしく彼女のことを気にかける様子をみてずいぶん前からピンとは来ていた。本人は何も言わないのでリテも何も言わなかったが、いつか言うだろうとは思っていた。そしてなるほど、彼ならシリアの性格は良く知っている。最初から直球でいかなければならないことを知っている。そして、いまだ彼女の心の片隅にオーウェルがいることも。
「私は別にいいと思うけど。他の人ならいざ知らず、彼だったら受けてもいいんじゃない、って」
「リーテー、他人事だって思って……」
「いや、本気本気。普段あんなでいろいろ巻き込まれてるけどすっごく本来は大きい人なんだと思う。で、優しい人よ、彼。ちゃんと物事の道理もわかってるし。ジェイ君のことも知ってるし。なにより貴女のおやかん趣味を理解してくれてるじゃない。それが一番ネックだったでしょ」
「なによその言い方……おやかんはライフワークなのよ……」
「ほらそれ」
「……」
　口を尖らせてリテを見るシリア。少し肩をすくめ、シリアから離れておかれている椅子に座った。
「それにしても直球ねぇ彼も。普通さ、お付き合い期間というか、そういうのあるじゃない」
「……いずれ本人からとか、先輩から聞くと思うから先に言うけどね……」
　動揺収まりきらない口調でシリアは語る。近日中に研究室を離れ、本来彼がいるべきところへ帰るつもりであること、おそらくそうなったら気軽に自分たちに会えないこと。だからこそその時、シリアを連れて行きたいのだということ。
「……あ、そうか……彼って……」
「うん……普段忘れてるけど、跡取り息子なんだよね」
「記憶してる限り相当長い時間家を出てるから、会社側が跡取りと認めるかどうかわからないわ。それでもけりをつけに戻るのかぁ……ヴァリスの名誉会長が緊急入院したってこの間ニュースで言ってたけど、それが原因なのかな」
「そこまでは、知らない。トミー……実はあんまり自分のこと言わないから……」
「そういえばそうね」
　うつむいたままのシリア。リテはその肩にそっと手を伸ばす。
「今日明日じゃ無理かもだけど早めに結論出してあげてね。貴女のためにも、トミー君のためにも。彼はちゃんとはっきり口に出して言ったんだから貴女もそれにきちんと答えるべきなのよ。応じる応じないは別として」
「うん……ジェイとも相談してみる……」
「ジェイ君？　彼は関係ないの。貴女よシリア。貴女の感情よ。じゃあジェイ君が嫌だって言ったら断るの？　それって変じゃない？」
　言われて黙る。リテの剣幕に押されたわけではない。ただ、その内容の正当さに。
「ともかく私は別に悪くないと思うよ。フロストから仕事中の話もたまに聞くけど悪い噂はないし」
「だからこそ、よ。知ってるよ、トミーのこと、少しだけだけど。すごく、すごくいい人。だからこそ……私、なんかよりも、もっといい人……」
「ばか！」
　唐突な大声に驚いたシリアが顔を上げるとリテが怒っている。めったに怒らない彼女が本気で、心の底から。
「どうして貴女ってそうなのよ！　どうして一歩踏み出さないのよ！　大体どれだけの期間一緒にいたと思ってるの！」
「……うん」
「その上で、貴女のこと全部見て、貴女を選んだんでしょ！？　それくらい理解しなさい！　そうやって自分卑下してる貴女はいいわ、だけどそれはトミー君も貶めてるってこと、わかってるんじゃないの！？」
「トミーは！　そんなことない……」
「そうかしら？　彼は見る目が無いってことを喧伝してるってことでしょ？」
「……でも……私……」
「あのね、シリア。私は貴女のこと基本的に好き。だけどね、どうしても我慢できないことがあるの。どうして自分を必要以上に卑下するの？　どうして自分だけの考えで完結してしまうの？　それがもうね、どうしようもないくらい嫌い」
「……」
　リテの声が耳に響く。心に突き刺さる。何一つ言い返すことが出来ない。
「……過度な卑下は人をイラつかせるだけよ。それもわかってるんでしょ？」
「……うん」
「ならやめなさい。私はあなた達、お似合いだと思うから。貴女はちゃんとトミー君の隣に立ってていいのよ。もちろんカルサート君だって、グスタルド教授だって。みんなそう思ってる」
「……うん、ありがとう……でもなんでその人選なの？」
「なんでって……」
　怪訝そうにリテを眺める表情はまったくわかっていない。この期に及んでそんな彼女に苦笑するしか出来なかった。

　結局何をすることもなく家を出て行って戻ってきた気がする。ジェイがにこやかに出迎えてくれて、荷物を降ろしたら食事を準備する。一通りの儀式のようなもの。
「ねぇジェイ」
「どうしたの姉ちゃん」
「……私が結婚するって言ったら、どう思う？」
「別にいいんじゃない？」
　リテには言われたもののやはりともに暮らす家族。ジェイに一言も言わないままではいくまい。意を決して言葉にしてみたのだが簡単に返された。
「あんた、簡単に言うわね」
「だってどうせ僕が知った人なんでしょ？　昨日の様子だとトミーにいちゃんなんだろうけど」
「……」
「別に僕はカルスにいちゃんだってもいいんだけどね」
「ねぇ、どうしてその人選なのさ。リテにも似たように言われたんだけど」
「え？　姉ちゃんのこと知り尽くしてる男って言ったら僕とトミーにいちゃんとカルスにいちゃんくらいじゃないか。他の人はおやかんで恐れをなしていくんだし」
「……ちょっと。そんなに怖いの？」
「怖いよ。低高度高速飛行された日にはリビング全滅じゃない。よくにいちゃんたち呆れずにいるよなーっていっつも思う」
「それ、あんたにも言えるけど」
「そうとも言うね」
　軽くいなされ渋面になる。いつの間にこんなに口達者になったのか。
「僕は姉ちゃんが幸せになるなら何も言わない。だって姉ちゃんは僕に十分幸せの場を与えてくれたから」
「……ジェイ」
　子どものように見えるがその実そうではない。普段忘れているが彼はそういう存在なのだ。存在自体が不思議。
　と、玄関で呼び鈴が鳴る。ジェイが見に行って。
「姉ちゃん、トミーにいちゃん！」
「！」
　思わずボウルを取り落としそうになった。即座に抱えなおして恐る恐る玄関に行けば、いつもと変わらない笑顔を向ける男がいた。
「ああ、リテさんから帰ってるって聞いたから。ちょっと、いいか？」
「あ、え……と」
　口ごもっているとジェイにボウルを取られた。
「ちょっとぐらいならいいよ、兄ちゃん。ほら姉ちゃんも行った行った」
　むりやり家から追い出された。

　どうしたものだかと近くの小さな公園へ。遊具に腰掛ける男と、それを柵に座って眺める女。
「ええと……とりあえずまだすごい動揺してるのはわかるが……」
「……うん」
「別にすぐ返事欲しいってわけじゃない。今ゴタゴタしてるしな。お前なら……シリアなら、絶対結論出してくれるって信じてる」
「……」
　言葉に熱くなる。
「昨日ちゃんとそこまで言うつもりだったんだがな」
　苦笑して遊具を揺らした。さび付いたきしみ音が響く。
「けど、撤回はしない。俺の本気だ。この時期に言う自分が一番悪いんだろうが……」
「う、ううん……そんなこと、ない、トミーは、悪くないと思う……」
「そういってくれるならよかったよ。ありがとな」
　笑う。どうして、どうして笑えるのか。それがそのまま言葉となる。
「どうしてって……振られるにせよなんにせよ、俺は数年単位で抱えてた思いをやっと伝えられたんだ。そしてその言葉をシリアは理解してくれた。今はそれがうれしくてならない。どんな結果になっても俺はお前を恨んだりしないよ」
「……ん」
「まぁ出来れば受けてくれたら俺的には天にも昇る心地なんだけどな、そこまでは強く言わなくてもわかってるだろ」
　頷くシリア。

「うん、じゃあそういうことでこれやる」
「……？」
　手を出してくれというので素直に出す。その手を彼の両手で包まれた。
「！」
「もういっちょ見つけた。お前のコレクションの一つに加えてくれると嬉しい」
　重力にしたがって自分の手のひらに落ちた小さなもの。ずしりと重みがある。この重みには覚えがあった。
「これ、は」
「ああ。もう一つ例の雑貨屋に残ってたんだ。親父さんも気づいてなかったみたいだ」
　最初に彼がくれた、小さな小さなポット型ペーパーウェイト。自分の状況も忘れ思わず見入る。そんなシリアをトミーは。
　次の瞬間、女は抱きしめられていた。何が起こったか理解するより早く耳元で囁く声がする。
「シリア。俺は、お前が好きだよ。これも昨日言えなかったから。もう順番が本気でグチャグチャになっちまった」
　楽しそうに声は踊っている。
「俺が言いたかったこと。伝えたかったことはこんなところ。それを踏まえていつか答え、聞かせてくれ」
「あ、な、なんで、だ、抱き、しめ、て」
「あー……」
　当然といえば当然のシリアの問いかけに困った声をだす。どんな表情をしているか想像が付く。
「少しばかり俺にも役得が欲しいかな、って。むしろこうなったらとことんまで迫ってみようかって思ったってのもある」
「ばばば、ばか！」
「馬鹿でいい。でなけりゃ伝わらないんだ」
　男の腕にこもる力が強くなる。シリアは半泣きで目を閉じた。握り締めた手のひらの中の錘が鈍くその形を伝える。
「……ま、この辺にしておく。この後は最後のご褒美ってことで。……じゃないとおやかんが来そうだ」
　冗談めかした言葉の奥にかすかな寂しさ。ハッとなって目を開ければ泣きそうな顔のトミーと目が合った。紫の瞳が不安そうに揺らめいている。
　ああ。本当は。この彼も自分と同じように動揺しているのだ。自分の放った言葉がどういう結果を引き起こすのか、本当は恐怖しているのだ。
「トミー……」
「ああ。じゃあまた明日。明日は本部来るよな？　みんなお前がいないのはなんだかんだでさびしそうだったよ」
「……うん、うん、わかった」
　体を離して照れくさそうに笑うトミー。けれど今はもう知っている。この表情は本当の心の内を見せないためだ。そういえば彼は、初めて会ったときからこういう顔をしていた。もしかしたら、彼の生まれのせいなのかも、と。
「送っていこうか？」
「いやさすがにそれは大丈夫。目と鼻の先というか入り口目の前だから……」
「そうか」
　一瞬残念そうな顔をするがすぐ気を取り直したように顔を上げる。
「じゃーな。ジェイによろしく」
　そして振り返らずまっすぐ帰路につく。シリアはなんとなく、その背が見えなくなるまで見送った。