諸君 私はおやかんが好きだ
諸君 私はおやかんが好きだ
諸君 私はおやかんが大好きだ
笛吹きケトルが好きだ
金色のおやかんが好きだ
南部鉄瓶が好きだ
焼き物の急須が好きだ
ティーポットが好きだ
台所で
茶の間で
火鉢の上で
囲炉裏の上で
机の上で
この地上で用いられるありとあらゆるおやかんと
それに準ずるものが大好きだ
新しく買ってきた笛吹きケトルに初めて水を入れコンロにかけるのが好きだ
しばらく置いた後に高らかにお湯を沸いたことを知らせる時など心が躍る
笛吹きじゃないおやかんを眺めるのが好きだ
その丸みに隠された宇宙の真理を見た瞬間など胸がすくような気持ちだった
使い込んだおやかんを磨くのが好きだ
油と湯垢と焦げ目で真っ黒だったおやかんが新品同様になるのは感動すら覚える
出かけた先で自分好みのおやかんを見つけたときなどもうたまらない
こっそりとカメラに収めることに成功したときなど最高だ
おやかんに加えてティーポットや急須なども一緒に並べてある様などを見れば絶頂すら覚える
運動系クラブで使われるおやかんが好きだ
荒っぽい扱いで丸かったその形がぼこぼこになっていく様はとてもとても悲しいものだ
おやかんと呼ぶのが好きだ
やかんなどと呼ばれていると無関係な人間であろうとも屈辱の極みだ
諸君 私はおやかんを その丸さと内に秘密を持つおやかんを望んでいる
諸君 私に付き従うＩＯＣ会員ならびに役員の諸君
君たちは一体何を望んでいる？
更なるおやかんを望むか？
ボコボコにされたおやかんを望むか？
美しく光り輝く素晴らしい曲線を描くおやかんを望むか？
おやかん！ おやかん！ おやかん！
よろしい ならばおやかんだ
我々は全身全霊でおやかんの素晴らしさを伝える尖兵たちだ
だが 金物屋のおやかん売り場で悦に入っているのに
商売の邪魔だといいたげな視線に耐えつづけてきた我々には
ただのおやかんではもはや足りない！！
大おやかんを！！ 一心不乱の大おやかんを！！
我らはごくわずかの少数だ
「お」をつけずやかんと呼ぶ人間に比べれば吹けば飛ぶような、100人に満たない人数だ
だが諸君は一騎当千のおやかん好きだと私は信仰している
ならばわれらは諸君と私で総兵力10万と１人のおやかんを愛しすぎている集団となる
我々のおやかんの真実を知らずに湯を沸かしながら眠りこけている連中をたたき起こそう
蓋がカタカタ鳴る音で、笛吹きの凄烈な高音で火事になることを思い出させよう
連中におやかんの偉大さを思い出させてやる
連中にその丸さとお湯の恩恵でどれだけの人間が癒されてきたかを思い出させてやる
コーヒーと紅茶のはざまでどちらを入れようか悩む姿に哲学があることを思い出させてやる
10万人のおやかん信仰者で
茶会を支配してやる
おやかんさま布教作戦 状況を開始せよ
往くぞ 諸君