目覚め
体はまったく動かなかった。しかし呼ぶ声が聞こえる。
「誰?」
頭の中で問う。一体誰がいるというのか。が、なんと反応があった。
「ピナス!?ピナスなの?」
「そうだ」
「ティアーズよ。あなたどこにいるの?単独任務っていわれたきり、十年も音沙汰なしだもの、心配したわよ」
「十年……もうそんなに眠っていたのか」
「眠って…?…もしかして冷凍催眠!?」
「そうだ。私は研究所の隔離棟の中で眠っていたよ。ずっと」
「良かった…今、私はシードを探しているの。その過程であなたをたまたま見つけたのよ。きっとあなたのボックスはメインコンピュータとつながっているのね。そうでなかったらずっとあなたの事を知らずにいたはずだわ。で……起き抜けに良くない話題だけど…シードが、脱走を繰り返しているの…」
彼女は今アミの目のように張り巡らされたネットの中に意識を投出しているのだろう。メインコンピユータに潜り込みシードの情報を探すうち、冷凍催眠や禁固刑のことを思い出して隔離棟に入ってみたそうだ。そしてたまたま私が見つかった、と。
「なっ…?」
「あっ、ネットに引っかかった。シード、シード、今どこ?私よ、シード。ここにピナスもいるわ!」
しばらく接続が途切れる。無限とも思える時間が過ぎて行く。
「本当にピナスなのか?」
「う、ウーディー!!」
「ピナスなんだな。良かった。ちゃんと生きてたんだ。俺は信じてたぞ。十年、待ってたぞ」
突然再開した接続は、ウーディーの喜びを含む声からだった。十年前に私の事を聞かされたときからおかしいと思っていたそうだ。
「あれから俺達の国はほとんどの国を制圧した。残っているのはモンドヴィア・クトゥーン、例の科学の集う場所だ。シェイナが落ちたら後は早かったよ。それでモンドヴィアに攻めるのに、シェイナにあった例の兵器を使うことになった。でもそれがいけなかった。誰も扱えなかったんだよ。兵器を造った人間は制圧時に殺されているから…それに書類もすべて破棄されていたから。ティアーズが探してもどこにも残っていなかった。結局どうなったって、俺達に回ってきたんだ。軍はどうしてもあれを使いたいみたいだったから……」
「俺は、そんな消耗品みたいな使われ方をされるのがいやだったんだよ。だから逃げたんだ」
「シード?」
「うん。ピナス、久しぶりだね」
外から割り込んできた通信はやや乱れていた。
「今、どこだ?」
「隔離棟の中だよ。隠れているんだ。ピナス、君のボックスはどこだ?そこまで行くから」
私は、位置は良くわからなかったので、彼に探してもらうことになった。
「シードがそこにいるのか」
「ウーディー、なぜ彼は逃げようと?」
「あいつは兵器の精神攻撃というか通信を受け取ったんだ」
十年前兵器を見に行ったとき、帰り際に何人かが兵器の思考を受け取ったという。その中で意味を取れたのはシードだけだったとか。様子が変わってきたのはその頃からで、やたらと脱走の機会をうかがうようになったそうだ。そして最近行動を開始し始めたという。
「ほかに様子が変わったものは?」
「……」
「ウーディー?」
しばらくの沈黙。
「ウ…いや、そのうちここに戻ってくるんだろ?自分の目で確かめてくれ」
その言葉が合図だったかのように私は眠りから起こされた。頭を振りながら起きあがるとシードの薄紫の瞳が見えた。私達は“年”という概念を持たない。君達の言葉で言うなら、年を取らないということだ。だからシードの様子はまったく変わっていなかった。でも違和感があった。
「シードなのか」
続けようとする私を制し彼はついてくるよう合図した。台から降りると再びボックスのふたがしまっていく。きっとティアーズが細工をしたのだろう。機械の無機的な音を聞きながら、私はシードの後を追った。見つかったら私は処分されてしまうだろう、そう思うと恐ろしかった。しかしすれ違う研究員は私のことなどまったく気に留めていない。どうやらイムだけに命令は伝わっていたようだった。
「シード、君は追われているのでは?」
「多分そうだろうけど…今はそれどころじゃないんだ」
後半ははっきりと聞き取れなかったが、とにかく彼が追われている身ではないということなので安心した。
「変わったことは?」
「ウェイとサイルが変わってしまったよ」
彼らは兵器の思考が一番ひどく出たという。性格まで変わってしまったらしい。ウェイはまったく使い物にならなくなり、サイルは今、仲間たちの総指揮を取っている。
「サイルが?あの、おとなしかったサイルが?」
「ヒリエッタに並ぶほどの軍師としてね」
「やはり十年は大きい…」
そのことを噛み締めずにはいられなかった。
そこにはクラウドとネオがいた。
「ピナス!!本当に…ティアーズから聞いたときまさかと思ったけど、良かった……」
クラウドは私に抱きついて、ボロボロと涙を流した。
「やっぱりあなたがいないと」
ネオはうれしそうに言う。
「クラウド、ウーディーと一緒にずっとあなたのことを探していたの。あなたがいないと能力の規模が小さくなったって言ってたから」
「なぜ?」
「やっぱり知らなかったのね。クラウドはあなたの意識をコピーして造られたの」
初耳だった。聞けば、既存被験体の精神コピーによる新しい被験体の創造も行われていたらしい。そのコピーに立ち会ったのがネオだったという。
「もしもあなたの意識が損なわれたら大変だっていって…あなたの時間跳躍能力が惜しいのだって言ってた」
「そうだったのか」
彼女によると、何らかのかかわりのある被験体同士は、どちらかがかけるともう一方も調子がおかしくなるらしい。それで合点がいったのはシードのことである。あの時考えずに攻撃を加えたのは、その片割れであるネオが精神攻撃で参っていたからなのだということを。
いまだ泣き止まないクラウドを抱えて私はじっとしていた。
「ところであとのものは?」
「兵器、今は‘キル・レイン’って呼んでいるんだけど、それの移動に」
「だから防御系がいなかったのか。でもなんでウーディーが行っていないんだ…」
「あいつは今、この研究所にシールドをはる機械作りを手伝っているよ」
モンドヴィアは、私達の国が私達被験体の存在で勝ってきたことを知っているから、各地の研究所を狙って攻撃を仕掛けていた。そのねらいは正確無比。モンドヴィアからはかなりの距離があるはずなのに外れたことは一度も無かった。しかも機械類だけを壊すウィルスを落とす。だから機械を使わない有機的シールドを張るようにしたのだ。
「そうか…」
なぜか無性にウーディーに会いたかった。と、あることを思い出した。
「シード。兵器、キル・レインからの思考は、何だったんだ?」
「『自由』」
「それだけ?」
「それだけだった」
たったそれだけのどこにウェイを変え、サイルを変える力があったのか。しかし不思議と引かれるものがある。
「結局まだキル・レインの全貌はわかってないの」
落ち着いてきたクラウドが体を離した。Type5621-Bをはずすとあたり構わず攻撃が来るから、どうしてもできることは限られる。超音波や電磁波を使うにも、前にウーディーが言ったように完璧なシールドは外からの干渉も受け付けない。Type5621-Bをはずすにもその後がどうなるかわからない。ただわかっているのは機械で動いているのではないという事だけ。
「今あれを移動させようとしているけど、type5621-Bごと周りにもっと大きなシールドを張らなくちゃいけないのね。でも一番力の強いウーディーはこっちにいないといけないから、残った防御系が全員そこにいってる」
「で、グロウの姿も見えない、と。だいたいあいつはクラウドと一緒にいたから、いないとなんだか変な感じだ」
「本当は私が指揮を取って移動させないといけなかったの。でも私の能力は半分以下に落ちていたから行かなくなった」
部屋の戸がたたかれた。一瞬私は身を固くする。
「お帰りなさい、ピナス」
ティアーズが戸口に立っていた。
「ああ…ん?ティアーズ、お前、何か変だぞ?」
彼女は疲れていた。もっとも私が『疲れる』とはなんなのかを理解したのはもっとずっと後のことだった。
「ここの所ずっとネットと接続しっぱなしだから、思うように力が発揮できなくて…」
「気をつけろよ。あんまり無理をするな」
言った自分がびっくりした。私自身も仲間をねぎらうことばを発したのだ。
「ありがとう」
ティアーズは別に驚いた風でもない。それどころか微笑んだ。
そのとき私は、(私を含めた)全員がヒトらしくなったことに気がついた。相手をねぎらう心、微妙な表情、そして涙を流すこと。どれをとっても昔の私達には存在しなかったものだ。私がコールドスリープをかけられた頃にはごく一部の者しか持っていなかった。たかが十年。しかし時は確実に流れるのだ。
「キル・レインの輸送は、ほかの研究所と協力してすることになった」
「ふん、大方ヒトを傷つけないようにって、俺達作り物をかり出そうっていうんだろ」
「シードっ!!」
サイルの言葉にシードが口を挟む。この繰り返しで会議は進み、最後にはシードが自分の個室に帰ることで決着をみた。私は口を挟む気は無かったので、端のほうに座っていた。確かにサイルは優秀な軍師ではあったが、まだまだヒリエッタの足元には及ばないといった様子だった。
「ピナス、念のために輸送についていってくれないか?」
サイルが言うのは、十年前のように時間を戻さなければならない状態になったら困る、ということだ。
「私か?でも私は今でもコールドスリープされていることになっているのだ。イムや所長に見つかったら今度は処分される。それにほかの研究所にも時間を操れる者ぐらいいるだろう?」
「イムも所長も、もういない。イムはモンドヴィア戦線に行って帰らなくなった。所長は失脚して、今はヒリエッタ・ウィンの直接管理下に入っているんだよ」
ということは、私を眠らせたヒト達はもういないのだ。ただあくまで私が知っている範囲のものなので、ティアーズに命令がどこから伝わったのか調べてもらった。しばらくして命令は所長が勝手に下したことがわかった。きっと偵察に成功したら、それにかこつけてヒリエッタに言い寄ろうと思っていたが、失敗の報告を受けてそれができなくなったことへの嫌がらせだったのだろう。
「それに残念なことに君ほどの力で時間を操れるものはいないんだ」
「わかった。私で役に立つならついていこう」
「助かるよ。…ところでピナス」
私のところに近寄ってきたサイル、耳元で小声でこう言った。
「みんなをまとめるって、難しいね」
思わず私は満面の笑みをこぼしてしまった。そして彼に、
「要は慣れだ。大丈夫。君ならいい指導者になるよ」
と返した。彼はウインクを一つして部屋を出て行った。改めて部屋を見まわすと、例によってグロウが居眠りをしていた。以前は腹立たしいとしか思えなかった彼女の居眠りも、今はそう思わない。彼女は、会議が終わったことに気づいて私のところにやってきた。
「ねーねー。ずぅうっと前に一緒に散歩したときのことを覚えてる?」
うなずいた。クラウドとウーディーもやってきた。
「あの時ヒトを生きかえらせたよね。私、何であのヒトが、『生きていたい』っていう波動を出していたのに、息返らせたら『殺してくれ』っていったのかずっとわからなかったの」
グロウは独白を続ける。誰も邪魔をしない。
「でもね、最近なんとなくわかるんだ。あのヒト、きっとあそこで生きかえったら、また奴隷になって、ずっとこき使われるから、もっと生きていたかったけど、死にたかったんだ、って。『幸せに』生きていたかったんだなあーって思うよ」
ぎこちない彼女の言葉。それだけにすっと理解できた。彼女は忘れてはいなかった。ずっと昔のことを今でも覚えていて、そして私達の前で語ったのだった。
「ピナス、ウェイの様子、見に行くか?」
落ち着いたところでウーディーが声をかけてきた。私が首を縦に振ると、クラウドが詠唱をはじめた。
そこは自然が美しいところだった。私とウーディー、クラウド、グロウの四人は草原の真ん中に立っていた。
「ここは…」
「元ハインサーシ帝国の、ドグ台地だ」
ここは私達の国が占領した土地の一つだった。万能薬になるというまぼろしのロッカ草が生えるところだという。
とおくのほうに人影を見つけた。向こうが先に私達に声をかけてきた。
「おーい。そこには誰がいるのかな?」
「俺だ、ウェイ」
「ウェーイ!久しぶりー」
「ピナスが、帰って来たよー」
慌てて彼はこちらに走ってくる。
「ピナス、懐かしい…」
彼はこの場所が手に入ると、ここで自然の番人をして暮すと言って私達から離れた。
「だってこんなにきれいなところ、誰かが必ず荒らしに来るよ。ハインサーシのヒトはしないけれど、実際僕達の国のヒトはロッカ草ねらいで何度も荒らしに来たんだ。でも最近は、番人が居るってことでね、回数がずっと減ったんだ」
彼は生き生きとしていた。見ているこちらもすがすがしくなるような笑顔を見せてくれた。
「ウェイウェイ、このあたり、案内して〜」
グロウがそう言うとウェイは喜んで、と彼女をつれていった。私も、とクラウドもついて行った。
「なんだ、シードが使い物にならないなんていうから一体どんなことになっているのかと思ったけど、心配無いな」
「きっとシードは『戦いにおいて』という意味で言ったんだろうな」
草原の中を駆け回る3人を見ていると私も走りたくなった。私達も行こうと、ウーディーに声をかけようと振り向くと、彼はじっと私を見ていた。
「変わってないな」
「君のほうも、ね」
彼は私から翠の眼を離し空を見上げた。
「ずっと探した。クラウドも一緒に心配してた。俺は君がいない十年、どうしようもないくらいつらかった」
「私は完全に眠る前、君のことを考えた。君は私がここにいることを知らないのだろうな、と」
「ずっと遠くに行ってしまったと思ったんだ。君が冷凍睡眠される理由は何一つ無かったから」
「命令不服従と任務遂行に害になる思考の存在」
「なんだって?」
「所長のあてつけさ。ヒリエッタに言い寄ることができなかった腹いせってとこだろう」
「あの野郎らしい」
「確かに」
二人して顔を見合せ小さく笑った。
「ねーどーするー?出て行く?」
「そういうわけにはいかないよ。ウーディー、ピナスに一番会いたがってたから」
「クラウド、ピナス取られちゃうよ?」
「馬鹿、私とピナスはそんな関係じゃないの!!」
「そんな関係って?」
「あーっもういいっ!…君と話してるとつかれるよほんとに」
彼女らの会話は全部聞こえていて、私とウーディーは声をあげないように必死で笑いをこらえていた。
「あいつらの掛け合いを聞くのも十年ぶりだ」
「そうか」
「クラウドがな、グロウと話していても何かおかしかったんだ」
「………」
彼は私のほうに向き合うと、
「おれ達は誰が欠けてもいけないと思う。特に君が欠けたらいけない。俺達はばらばらだけど、一緒なんだ」
「そうだな…そうなんだよな?」
「そうだよ」
彼の言葉は力強かった。心がすっと軽くなる心地がした。
離れたところで様子をうかがっていた3人を呼び寄せると、私は現在の状態を聞いた。研究所に有機シールドを張ることはそう難しいことではない。ただ維持するのが機械ではやりにくいのだった。
「多分俺が張りつづけることになると思う」
ウーディーの生体エネルギーを利用するというのだ。
「でもそれじゃ君の体が持たないよ」
「ウェイの言うとおりだ。ほかに方法は無いのか?」
「あるにはある。戦いに早く勝つことだ。キル・レインがうまく使えたら多分張らなくても済むだろう」
「ということは私達の手にかかっているってことね。グロウ、根性入れるのよ」
手を取り合うクラウドとグロウ。
「根性……」
私のつぶやきを聞いてウーディーが小さく笑う。それを見てウェイがポツリともらした。
「これが終わったら、僕達どうなるんだろう」
全員が黙る。
「戦いのヒーローとして末永く幸せ…っていうのはないよね」
「…大方用済みになったから処分ってところだろうな」
ウェイが何を思ったか話からぬけてどこかに行った。結局のところ私達は作り物なわけである。消耗品というシードの言葉が浮かんできた。
「たかが消耗品、か」
「シードやウェイが正しいのかもな。さっさとちがう生活に入ってしまうほうがいいかもしれない」
「みんな、これを持って行ってよ」
ウェイが戻ってきて差し出したのは不思議な形の草の束だった。花びらはほとんど色が無い。
「これはロッカ草の亜種でフィリカ草っていうんだ。めったに生えない伝説中の伝説さ。たまたま見つけたんだけど、何かの役に立つかもしれないから持っていって」
「いいのか?」
笑いながらうなずく彼。
「僕はみんなについて行かないから、せめてものお守りにしてよ」
「ありがとう」
ウェイの手を握って私は礼を言った。眼に見える形ではないけれど彼も私達とともに戦ってくれている、その気持ちが十分に伝わってきた。
被験体は造られたものだから、休息を取らなくてもいいと考えてはいないか?実はそうではなくて造られたのもだからこそ休息がいるのだ。ヒトが造ったものに完全なものは無い。それは私達も例外ではなく、休息を取らないと身体のバランスが崩れてそのままでは崩壊してしまうのだ。このことを知っているから、軍の指令も私達に超過活動をさせない。どんなに切羽つまった状態でも、休息に入っている被験体を呼び出したりはしない。それなのにその夜は全員に強制召集がかかった。ヒリエッタからの直接命令だった。
「なんだろう?」
「私、本当はまだ休んでいないといけないのに」
「私もだ」
「しっ、軍師が来たぞ」
現れたヒリエッタはあまり変わっていなかったけれど、やはり以前よりも年を取った感じがしていた。今や彼女は、軍はおろかこの国の事実上の支配者のような存在だった(この国が、軍部主体だった事を思い出してほしい)。
「集まってもらったのはほかでもない、キル・レインのことだ。これから全員であれの輸送を行う」
「全員で?本当ですか?」
サイルが悲鳴を上げる。彼はまだ休息が必要だった。
「うそを言って何になる?確かに休息が必要な者もいるだろうが、今こそがモンドヴィアを攻める、最大の機会だ。ほかの研究所とは連絡を取ってある。ただ今より行動開始。輸送班、回復班、防御班および敵に対する攻撃班に分かれろ。この作戦終了の暁には、じっくりと休息をとらせよう」
有無をいわせない彼女の言葉が終わるか終わらないかの内に、あわただしく仲間達は動き始めた。正直言って彼女の言葉が信じられなかった。立ちすくんでいるとヒリエッタが私に近づいてきた。
「十年ぶりだな、ピナス」
「あなたも変わっていない」
「あのときはすまなかった。失敗するとは思わなかったから、少しショック状態だったのだ。後から謝ろうと思ったが、所長は単独任務につかせたというじゃないか。それで今までほったらかしになっていた。本当に済まない」
「それはいいですが、なぜこんなに突然行動を開始する必要があったのですか?」
「企業秘密だな。その質問は」
「そうですか」
不敵に微笑む彼女。その笑みにどうしようもない悪寒を感じた。本当に私達に休息は与えられるのだろうか。そのとき思い当たった。じっくりと休息を取ることは、すなわち処分、君達の言葉で言えば死にあたるということに。
ヒリエッタは私の考えていることを知っていたようだ。だから小さな、聞こえるか聞こえないかの声でこういった。
「そなたを欺くことは、私でもできないがな」
「なぜ、……?」
「全員ではない。私はそなたを気に入っているから、そなたはそうならない。そなたがどうしても、という者もそうしないでおこう」
「ヒリエッタ、私の質問に答えていませんが?」
まっすぐ彼女の瞳を見つめた。しかし彼女は巧みに私の視線をはずし会議場を立ち去った。いつのまにか、会議場にいる者は私とウーディーだけになっていた。
「軍師と何を話していたんだ?」
「なぜこんな時に行動を開始するのかを。…今まで、休息を十分に取らずに活動をしたことはあったか?」
「いや」
「やはり…」
「何がやはりなんだ?」
答えようとした時、ちょうど準備完了の知らせを持ってサイルがやってきた。だから、ウーディーにこの後どうなるのかを伝えることができなかった。勿論ほかの仲間たちにも。私は仕方なくサイルの後について防御班にはいった。
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