| そして風は吹く 噴火をとめるとは、並大抵の事ではない。結界を張りつづける事は不可能であるし、マグマを移動させるといってもどこに移動すればいいのかわからない。だからとめるのではなくそのまま噴火させてやるのだ。そして大きなエネルギーを宇宙に逃がす。マグマの噴出口をうまく誘導し、そこから宇宙に向けて巨大な道を作る。結界組が道の周り、つまり筒のようなものを作り、攻撃組が筒の中の大気に穴をあけ続けて、構成組が筒の中の空気をそれ以外のものにする。すべて終わったら回復組が大気の穴をふさぐのだった。ただ噴出口へ誘導する事は少し大変でありそんな時間もないので、私が一番大きな噴火が起こるところを推定するのだ。 「いよいよこれからだ」 「結界組、しっかりしろよ？」 「それは回復組にかかっているよ。しっかり私達を回復してくれよ」 これからする事は、噴火をとめる事に比べれば易しいことだが、けして簡単なことではない。全部の噴火をとめる事はできないので、いわゆる｢流れ弾｣で怪我をするかもしれない。それなのにみんなはすがすがしい顔をしていた。何かを守る事が、私達全員に力を与えたのだろうか。 私達は自然の創造物ではない。強引な力の捻じ曲げによってヒトに生み出されたものだ。それなのに私達は自然の存在であるヒトと変わらない思考能力を持っている。何かの本にかかれていたのだが、「考える」ということは一体全体どういう事なのかははっきりしておらず、それを人工のものに与えるのはほとんど不可能だということだった。じゃあ私達は一体何なのだろうか。何かを守るために大きな力を発揮するというのは、ヒト達の特性の一つだ（中にはそうでもないヒトもいるが）。そこまで考えて私は気づいた。私達はヒトなのだ。れっきとした人間なのだ。だからこそ私達は涙を流し、相手を思い、心を理解し、守るために自分達の考えで行動を起こす… 一番初めに心を持ったのはシードだった。彼は、ネオの一部から生み出され、言ってみればヒトが生まれてくる事に一番近い形でこの世界に誕生した。それが関係あるのかは私にはわからないが、彼が心を持っていた事は間違いなかった。 「俺達が何のためにいるのか？」 自分の存在に疑問を持ち、それを言葉にする。それこそが心を持っている事の証。ヒリエッタの唯一の誤算は、私達をヒトとして扱わなかった事のみ。だから私達は反乱を起こした。君が人間として扱ってもらえなかったらどう思うだろうか。そういうことだ。私達は私達だけの考えでここにいるといいたかったのだろう。別に噴火をとめる事でなくても良かった。反乱を鎮圧する事や、他国に攻撃を加える事でも良かった。私達の『意志』を認めてもらいたかった。 「ドグに被害が一番大きく、なおかつヒト達に被害が一番大きい噴火口は、ゲーヘルの最高峰、ディーヴァス山だ!!」 一陣の風のごとく私達は移動した。ディーヴァスの火口めがけて。 大自然の力は果てしなく強い。しかし私達は奇妙に冷静だった。それどころか微笑みすらも出た。そのまま笑いながら消えて行った仲間は何人いただろう。不思議なことに、彼らの刻印はすべて私の元に飛んで来、ティアーズのときと同じように私の体内に入り込んでいった。彼らの力は今でも私の中で眠っている。 「グロウ、大丈夫か！？」 「だいじょ…うぶじゃないけど…でも私がやらないと…」 「サイル！こちら側の『道』が壊れそうだ！」 「わかってるっ！でもこう力が大きいと…」 「もう少し俺がやってみる、回復組、頼んだぞ！」 「わかった！」 私は先に破れそうになっている『道』を調べ、時間を戻しつつ補強を頼んでいった。先にも言ったように力尽きた仲間の刻印が私の体内にある。そこから力がどんどん入り込んできたので、私はつかれ知らずだった。その上、私はどうやら時間をうまく操って、力を使った時にはその分だけ時間を戻して、元のつかれていない状態に戻していたらしい。しかしほかの仲間にはそんな能力はない。特にシードは自分だけの力ではなくネオの力も抱えていた。そして彼はそのどちらも惜しみなく使っていた。結局彼には二つの力を抱える事はできなかった。力の使いすぎでほかの仲間が倒れて行く中、彼は疲労で倒れた。驚いて彼のほうを見ると彼は私と視線を交わし、満面の笑顔を私に見せて、そのまま動かなくなる。 「シードぉぉぉ！」 一瞬、噴火の破壊力が弱くなる。 「ピナス！もう少しだ、だから耐えてくれ！」 ウーディーが何かを言っていた。クラウドが、グロウが、サイルが半狂乱になった私を押さえようとした。しかし、彼らも、火山も、この世界すべても包み込むように私の体から光が発せられた。あの時私が思っていたことは、すべてを元に返したいということだけだった。 気がつくと噴火は収まっていた。私は仲間を探すように辺りを見まわした。近くには倒れたままのシードと、そのそばにグロウがいるだけだった。 「ほかのみんなは…？」 「……わからない…」 呆然と立ち尽くしていた私にグロウが声をかける。 「いまのはなあに？」 「さぁ？…時間を戻したわけではないみたいだけど」 彼女もまだ状況が把握できているわけではなく、目の焦点が合っていない。 「助かった…」 「でも…みんなはもう…」 黙りこむ私達。と、地の底から振動が伝わってきた。 「助かってなかったんだ！またくる！」 「そんな…もう、押さえられない…」 「あきらめるな、グロウ！」 叫んだがすでにときは遅かった。激しい噴火にあわせて溶岩が流れ出してくる。先ほどまでよりはましなような気がしたが、そんな事はもうどうでも良かった。守りたいものを守れなかった、その敗北感でいっぱいだった。もう少しで土石流に飲み込まれると思ったとき、私の周りに結界ができた。そして声も聞こえてくる。 「…ピナスごめんな、もうこれだけしかできないよ…」 「ウーディー」 それっきり声は聞こえてこなかった。私も何も言わなかった。ゆっくりと浮き上がって行く結界の中で私は声をあげずに泣いた。 Epilogue 〜新しい種を育てるもの〜 結局私は何もできないままだったのだ。それからしばらくの間、どうにかして私は仲間達を取り戻そうとしたができず、何の食物を取らないままでも私は生き長らえている。赤・黄・緑・青・紫・黒・銀。結果的にすべての力を持ち合わせて、かれることなく力が後から沸いてくるこの状態は、一体なんだというのか。そんな状態のままでしばらく私はディーヴァスの近くにいた。すると、私の体からネオとグロウ、シードの刻印が出てきた。それらはそのままひとつに交じり合い、黄金色の輝きを発してどこかへ飛んでいった。私はぼんやりとそれを見ていた。と、ふとある言葉が頭に浮かんだのだ。 新しい種を育てるもの。−Neo Seed Glower− その後私は少しずつ仲間達を生み出していった。サイルは大地へ、クラウドは大空へ、ウーディーは森へと。かつての仲間達の力は私の体に残したままに、彼らのパーソナリティだけをかつての名があらわす通りのところへ私は送り出していった。私はそれをずっと見守ってきた。いつかウーディーが言っていた私の素養はこれだったのだ。ありとあらゆるものを見守り、共にある事。神という者がいるのならば、なぜこの役目を私などのような存在に任せたのかを聞いてみたいものだが。 退屈な話を長い間聞かせてしまったようだな。……もしかしたら君は、あの時の新しい種……いや、聞くまい。この世界のどこかで、私達の仲間が息づいている事は、私には良くわかっているのだから。さあそろそろ帰った方がいいだろう。来たときと同じように帰れば大丈夫。え？その話は本当なのか、と？少なくとも私にとっては紛れもない真実だよ。ほかのヒトにはただの昔話だがね… 帰ったか。本当に久しぶりに懐かしい話をした。あの子の瞳は本当にシードの瞳とそっくりだった。さて、私もこの空間から去ろう。新しい種子達の成長を見守るために。 END |